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2022.12.10

// 採用関連

1500文字プロット─2021年度 採用者作品

藤澤 仁(storynote代表)

【選択可能ワード】
台風の夜/豪華客船/形見/ビハインド/悪夢/見えない壁/魚の骨/デバッグ/
サーカス/ヴァイキング/哲学的ゾンビ/入浴剤/時間差/巣ごもり/すれ違い/
自撮り/高層ビル/風刺絵/氏神/合唱コンクール/コーンフレーク/パレイドリア/
リモート/背伸び/雨宿り/マッサージ椅子/空き缶/黄昏時/消防車/彗星

【選択ワード】《形見》《見えない壁》《背伸び》

両親を亡くした幼い少女・アーシャは、祖母エデグレデに引き取られる。若い頃は凄腕の傭兵として多くの戦場を渡り歩いたというエデグレデだが、孫娘に荒事を教えるようなこともなく、ふたりは辺境の村で穏やかに暮らしていた。だがアーシャが十六になった頃、そのエデグレデも突然の事故でこの世を去ってしまう。悲しみに暮れながら祖母の《形見》を整理していたアーシャは、見たこともない異国の文字が刻まれたメダルをみつける。メダルは磨き抜かれた石のようでもあり、うっすらと金属様の光沢を帯びてもいる不思議な素材でできていた。メダルに添えられた「いつかあの場所に戻りたい、私も花守になりたかった」という書き付けを遺言のように感じたアーシャは、大好きな祖母の望みを叶えてやりたいと願う。
「あの場所」に心当たりのないアーシャは交流のあった村人達にも尋ねて回るが、わかる者はいなかった。そこで答えはエデグレデの過去にあるのではないかと考え、昔から何度か祖母に宛てて手紙を送ってきていた「モース」という人物を訪ねることを思い立つ。
メダルと書き付け、そして祖母の遺髪を持って旅に出たアーシャ。祖母に聞いた昔話の記憶と手紙を頼りに幾つかの町を巡り、アーシャはやがて手紙の差出人・モースにたどり着く。彼は快くアーシャを迎え入れ、エデグレデの武勇伝を語った。名高い傭兵団を率いていたこと、ドラゴン族と友誼を結んだ希有な人間であり、飛竜の背に乗って宙を舞い、どんなに不利な戦場でも臆さず戦い抜いたこと。そして、相棒の飛竜が己をかばって大きな傷を負い命を落としたことをきっかけに、傭兵を引退したこと。
遺言の意味はモースにもわからなかったが、彼はエデグレデが何度かある山を訪れたいと語っていたことを思い出す。老いた身ゆえ同行できないことを詫びるモースに礼を告げ、アーシャはその山を目指した。
かつての国境をまたぐ形でそびえる山は、長い間領土争いのための激戦地であったが、戦争が終結して数年経った今では旅人のアーシャでも立ち入ることができた。山に入ると、あのメダルが輝き始める。メダルに導かれるかのようにアーシャは山道を進み、やがて朽ちた木々に覆われた岩壁の裂け目の奥で侵入者を拒む《見えない壁》に行き当たる。だがメダルの不思議な力が《見えない壁》に綻びを生じさせ、アーシャはそこをくぐり抜けることができた。
壁の向こうには、色とりどりの花が咲き乱れる渓谷が広がっていた。そこでは花々に埋もれるようにして、結晶化した多くのドラゴンが眠っていた。戸惑うアーシャの前に、一頭のドラゴンが現れる。ここは命を終えたドラゴンが静かに眠るための聖地であり、人間の来るべき場所ではない、疾く立ち去れと告げたドラゴンは自身を花守、と名乗った。

花守はなぜ人間が結界を超えられたのかと訝るが、アーシャが差し出したメダルを見て得心する。それはかつて、エデグレデの相棒であった飛竜が己の鱗で作り、信頼の証として贈った品だった。祖母の遺志をと、花守は今回だけだと念を押し、エデグレデの友であった飛竜の亡骸の元へとアーシャを案内した。致命傷を負い、エデグレデを乗せたままこの谷まで逃れて力尽きた飛竜は、相棒に看取られて息を引き取ったこと。ここへ残らせてくれと懇願するエデグレデを、ドラゴンの聖地に人間を住まわせるわけにはいかないと拒んだこと。祖母と飛竜の物語を聞き終えたアーシャは、頭を垂れて眠る飛竜の首元にエデグレデの遺髪をかけると、老いてもなお自分より長身だった祖母にいつもそうしていたように、《背伸び》をして亡骸の頬に恭しく口づけるのだった。
帰途についたアーシャは、故郷に戻ったらすぐにでも、魔法のメダル──飛竜の鱗──を、エデグレデの墓の傍らに葬ることを誓うのだった。

以上