【選択可能ワード】
認知の歪み/憤死/轍/相づち/又聞き/徴兵/Youtuber(Vtuber)/裏アカ/
メタバース/流れ作業/つま先/反省会/マグマだまり/タキサイキア現象/
ワーケーション/炭鉱のカナリア/病原体/ゴースト/誇大広告/タコさんウインナー/
肩たたき券/インスタレーション/遠吠え/歩道橋/ベイカーベイカーパラドクス/
詐欺/歯形(歯型)/ストーリーテラー/共感覚/シャボン玉
【選択ワード】《徴兵》《Youtuber(Vtuber)》《ワーケーション》
長く戦争が続くとある国では十八歳で《徴兵》されるが、膠着した戦況は志願兵だけで十分に維持できたため、若者たちは一時の苦役程度にしかそれを捉えていなかった。そんな中、戦争ゲームの凄腕で、実況系《Youtuber》として人気の青年が《徴兵》されるが、青年は非力で運動が苦手だった。
青年は訓練で落ちこぼれ、肉体的・精神的に消耗する。ある時教官から「お前は何ならできるのか」と叱責された青年は、やぶれかぶれに「ゲームと動画制作」だと応じた。さらなる叱責を覚悟したが、教官はむしろ興味深そうに説明を求める。青年が詳しく説明すると、教官は別室に来るように指示した。何をさせられるのか尋ねると、教官は皮肉に笑いながら「《ワーケーション》だ」と答えた。
後日、青年はキャンプから離れた観光地にある施設に飛ばされた。施設にはゲームセンターのように筐体が並び、青年と同じようなゲーマーが集められていた。施設の軍人は、青年たちは無人機操縦におけるゲーマーの有用性を確かめるために集められたチームだと説明した。
青年は不安を覚えたが、やってみれば無人機の操作感はゲームに近く、慣れるのに時間はかからなかった。チームは数々の訓練を着実にこなし、軍から評価されていく。どん底から一転して能力を活かせるようになった青年は活気を取り戻し、ここが自分の適地だと確信した。
また、青年は計画の広報担当としても重宝された。青年は計画の志願者を募るため動画を作るように指示され、それに従った。青年は持ち前の才覚を発揮して臨場感にあふれた映像を作成し、ゲーマーが無人機操縦者に憧れるよう仕向けるプロパガンダに貢献した。
だが青年はある訓練の最中、敷地に紛れ込んだ敵部隊を発見する。施設の場所を秘匿するため、軍は即刻射殺を命じた。青年は命令どおり引き金を引くが、それをきっかけに、結局自分は人殺しのために施設にいるということが心に重くのしかかっていった。
一方で計画は順調に進んだ。やがてチームの実戦投入も噂されるようになり、青年はこれ以上の殺人は耐えられないと怯える。休日に久しぶりに通話したゲーマーの友人たちからも、計画に志願したいという声が出てくる。青年のプロパガンダは、きちんと世に影響を及ぼしていたのだ。楽天的な友人たちに青年は「これは人殺しだ、ゲームとは違う」と怒鳴るが、友人たちは妙に意固地だった。
そしてついに最後の訓練が発表される。それを終えればチームは実戦に投入されるのだが、青年はこれ以上殺人に関わりたくなかったし、友人たちにも殺人をしてほしくなかった。計画が失敗すればそれらを両方防げると考えた青年は、出撃直後に味方を攻撃、自身も墜落するという大失敗を意図的に犯した。青年の行動の結果、《徴兵》は精神的に不安定だと軍は判断し、計画は青年の意図通り破棄された。青年は元の部隊へと戻されたが、もう人殺しをしなくて済むと満足しながら、苦しい訓練に励んでいた。
だが部隊はある日、訓練と称して見知らぬ荒野に輸送される。なんとそこは本当の戦場で、遅れて《徴兵》されてきた友人たちの姿もあった。友人たちが言うには、実は青年が無人機の訓練をしている間に戦況は急激に悪化しており、《徴兵》も前線に投入されるようになったのだという。青年は気づく。友人たちが計画に志願したがっていたのは、《徴兵》の前線投入を知っていたからだ。敵兵が軍用地に侵入できたのも、チームの実戦投入が計画されたのも、戦況が悪化していることの反映だったのだ。
人殺しから逃げたはずがさらなる地獄に皆を巻き込んだことを悟った青年は、絶望的な思いの中、銃弾が降り注ぐ荒野へ突撃していった。
以上