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声出し応援/白馬の王子/フリースタイル
【選択ワード】《Y2K》《卒業旅行》《玉響現象》
『たまゆら世紀』
『機人(きじん)』と呼ばれるアンドロイドが社会に普及し、世界文明は飛躍的に進歩した。
しかし、世界はY3K問題に直面する。
これは西暦3000年1月1日に全ての機人が異常終了し、記憶・設定・記録が全て初期化されることで発生し得る事象の総称であり、かつての《Y2K》問題に倣った世紀末の問題である。
世間はこの話題で持ちきりで、更に続く新世紀は一体どうなるのかとざわめていた。
とある機人オーブは、富裕層に人気の男性執事モデルであった。2999年1月頭、Y3K問題の影響で彼は雇用主の貴婦人から解雇通知をされていた。彼は最期の1年を邸宅内ではなく、外の世界で過ごすべきだと彼女から命令を受けたのである。彼は最低限の身支度を整え、邸宅を後にした。
オーブはとある街で蹲る少女を見つける。
彼女は病で余命1年もないと宣告された上に家庭から追放された身であった。機人は見かねて少女を保護する。そこから、機人と少女は共に過ごし、余命1年同士で世界を巡る人生の《卒業旅行》を計画した。また、彼らは《卒業旅行》の記録として3000枚の写真撮影を企画する。《卒業旅行》中でこの西暦3000年分の世界を巡りたいという彼らの願いでもあった。
その旅行の中で、彼らはとある国で『有機機人』という存在に出会う。
有機機人とは端的に言えば肉襦袢を着た機人である。肉体的特徴はほぼ人間であり、寿命と共に稼働を終了する特徴がある。少女はこの有機機人に一際興味を示して交流をしていた。
こうして、様々な出会いの中、彼らは世界の解像度を上げていった。
オーブのパーツである遠隔撮影カメラのデータも幾千と積み重なる。とりわけ二人のお気に入りは雨の中で光り輝く電波塔が見える歩道橋で撮った写真である。雪のような、蛍のような《玉響現象》が発生しており、四季を同時に感じる傑作であった。最期の時は、二人で此処にまた来ることを誓った。
時は経ち、2999年12月31日、彼らは雨の日にあの電波塔が見える歩道橋に再来した。
その時、少女は自身が有機機人であると告白をした。オーブが告白の理由を問うと、当初は彼女自身に有機機人の自覚がなく、《卒業旅行》の中で自身がそれであると確信したからだった。
オーブは少女に最期に何がしたいか問う。彼女は、3001枚目の写真が欲しいと答えた。
最期の1秒まで思い出を遺したいという叶わぬ希望であった。新年まであと僅かとなる。オーブと少女は手を繋ぎ、カメラのタイマーを設定した。
新年を祝う大衆の声の中、二人は見つめ合い、互いの意識は、やがて瞬断した。
機人は再起動すると雨音と朦朧の中で、隣の見知らぬ少女を認識する。動かぬ彼女を見た瞬間、虚無のメモリーに何故か一つだけデータがあることに気付く。それは機人と少女が映る《玉響現象》が発生した写真であった。数分前の時刻が印字されており、写真の場所が此処と理解するのに時間はかからなかった。すると、それが契機になったのかメモリーに大量の情報が押し寄せ、《卒業旅行》の記憶がロールバックしていく。
全てを思い出した機人は少女を優しく抱き、精巧な眼窩から光のオーブを一滴垂らした。
あの日から1年後、不安視されたY3K問題は、《Y2K》問題然り、日常から忘れ去られていた。
一方で、31世紀最初のトレンドは、とある電波塔前の写真店にて、一人の機人が3001枚に及ぶ『卒業写真』の複製を注文してきたという話だ。やがて、この写真群は機人によって瞬く間に世界に広がった。人々は写真群をまるで三千年間の三千世界をたまゆらに巡るようだと形容した。
こうして、新世紀は『たまゆら世紀』と呼ばれることになったのである。
以上