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2024.11.07

// 採用関連

1500文字プロット─2024年度 採用者作品②『二つの葬式』

虎渡 由姫(広報 兼 シナリオライター)

【選択可能ワード】
蛙化現象/ショートカット/パウリ効果/オーバーツーリズム/闇バイト/マリトッツォ/
待合室/ファフロツキーズ/アイドル/共犯/コンコルド効果/動脈ピース/人の財布/
サウスポー/中央線/3度目の正直/電動キックボード/卒業旅行/ミートボール/Y2K/
玉響現象/ジェンダーレス/トンネル/信号/トリックアート/ピアノ線/イヤーワーム現象/
声出し応援/白馬の王子/フリースタイル

【選択ワード】≪学級会≫≪ミュンヒハウゼン症候群≫≪鍵っ子≫

『二つの葬式』

暑苦しい七月のある日。私のクラスの町田かな子ちゃんが死んだらしい。
≪学級会≫では、かな子ちゃんの机を卒業まで残すことが決まった。かな子ちゃんはお父さんとお母さんと三人で暮らしていた。生まれつき大きな病気を持っているらしく、髪が生えていなかった。それでもかな子ちゃんは元気で明るく、責任感がある子だった。皆かな子ちゃんの死を悼み、近所に住む人々もかな子ちゃんのお母さんを何かと気にかけていた。お葬式は、お父さんの実家がある地域で行われたようだ。

月日は流れ、久々にあの時のクラスの皆に会った。思い出話に酒も進み、楽しい時間はあっという間に終わりを迎え、会計を済ませた。私も幹事にお金を渡そうとしていたところ、はつらつとした声が響いた。「え、もしかして八尽小のみんな?」

髪は生えそろい、随分大人っぽい恰好になっていたが、それは確かにかな子ちゃんだった。あまりの出来事に沈黙が訪れたが、かな子ちゃんはそんな様子を意にも介さず思い出話を始めた。あの日のかな子ちゃんと変わらない、元気で明るい話し方だった。

二次会のカラオケルームに入った後、クラスで一番かな子ちゃんと仲が良かった江藤美智ちゃんが「私たちはかな子ちゃんが死んだって聞かされたんだけど……」と切り込んだ。すると、かな子ちゃんはあっけからんとした様子で話しはじめた。かな子ちゃんのお母さんは、同情されたくてかな子ちゃんを虐待していた代理≪ミュンヒハウゼン症候群≫だったこと、お父さんが危機感を感じてかな子ちゃんを連れて出て行ったこと。その後、「でも五月に引っ越したからそれ以降は全然!元気にしてたよ」と言った。その日二度目の沈黙が訪れた。その中で、たった一人青ざめた顔をした人がいた。私と一番仲が良かった石塚遥だ。遥は震えた唇で言う。

「萌音がいなくなったのって……五月じゃなかった?」

五月、私はかな子ちゃんのお母さんに「友達に会いたがってるから来てほしい」と言われ、お家にお邪魔した。ところが、結局かな子ちゃんの体調が悪くて会うことは叶わず、お詫びとしてケーキをごちそうになった。そこからのことはよく覚えていない。確かなのは、どこも悪くないのに体中にたくさんチューブをつけられたこと、足を折られたこと、かな子ちゃんの服を着せられたこと、髪の毛を剃られたことだ。≪鍵っ子≫だから誘拐されたんだとご近所さんが噂していたのと、お母さんが「ごめんね、ごめんね」と泣きながら捜索していたことはよく覚えている。声を出したかったのに、そういう時は決まってかな子ちゃんのお母さんが私の手を痛いほど握りしめてきた。
皆の中で町田かな子として死んだのは、私――牧野萌音だった。

空白の二か月について聞いた町田かな子は、唇を噛みしめた。今まで謳歌した自由が、ぐっと重くなった。萌音は未だに行方不明のままだという。
かな子は意を決して、同窓会で再会したメンバーと共に母が住む家に帰った。なりふり構わず家中を捜索したところ、庭を探していた一人が、手にたくさんの豆をつけた状態で大きな声をあげた。覗き込むと、わずかに乳白色のものが見える。かな子はやっと母親の呪縛から解放された気がして、自然と涙が溢れ出た。

ほどなくして、萌音の葬式が開かれた。かな子は母が犯した罪、自分の代わりに亡くなった萌音について、萌音の母親に謝罪をした。罵倒を覚悟して瞑った目に力を入れていたが、萌音の母親は「萌音を返してくれてありがとう。萌音があなたの代わりに死んだと思うのなら、あなたは萌音の分まで幸せに生きてね。」と優しく声をかけた。
かな子は最後まで遺影の中の萌音を直視することができなかった。

以上