Works実績

// 代替現実ゲーム(ARG)

少年の声、彼女のうた&令和7年度施設案内(第四境界/6417)

CEDEC AWARDS 2025ゲームデザイン部門優秀賞 受賞作品

担当範囲
企画・制作
企画・制作
SANKYO×第四境界
展開媒体
Web、LINE、冊子
サービス開始日
2025.06.19
ジャンル
常設型ARG
公式サイト
https://www.daiyonkyokai.net/case-mark/012/

少年は何を伝えようとしたのか
その真実を知るため、あなたは
再びあの施設の闇へと迫る……

「ぼくらの表現祭」に隠されたキーワードから始まるサイト探索型ARG、かがみの新章「少年の声、彼女のうた」。そして、新章の背景を深く掘り下げた「令和7年度施設案内冊子」。これらはどのように制作されたのか。企画を担当した安藤房枝・虎渡由姫・安藤未沙稀に、それぞれ舞台裏を訊ねた。

インタビュー
監督補 安藤房枝

企画が始まった経緯を教えてください

こちらの記事でも触れたとおり、リアルイベント「東京侵蝕2025」で「ぼくらの表現祭」の実施が決まったときに、この企画も同時に始まりました。

「ぼくらの表現祭」は現場での体験イベントで、プレイヤーの皆さんが自ら表現祭に潜入し、調査をする試みです。これまでにない臨場感を出せる反面、長く複雑な物語を語ることには向いていないので、どうやって厚みのある体験にするかが課題でした。

この点をチームで話し合った結果、同時期に予定されていた「かがみの一周年」のサイトアップデートを使って、「ぼくらの表現祭」の裏側で起こっていた大きな物語を語ろう、という「新章」の構想が生まれました。その流れで、追加コンテンツの「令和7年度施設案内冊子」で物語をさらに深く味わってもらおう、という方針までがすんなりと決まりました。

総監督の藤澤から企画にGOが出たとき、この構想ならば、かがみの一周年のアップデートとして充実した物語にできる、と手ごたえを感じていました。その一方で、リアルイベントの体験とWeb探索の体験を連動させることの実現難易度については、当初から藤澤に指摘されていたことでした。

「ぼくらの表現祭」に展示された、展示回ごとに変化していく絵画。プレイヤーはここから新章の物語へと導かれる

制作の際に苦労した点について教えてください

新章でプレイヤーに託されるのは、「少年が自分の力ではどうしても入手できなかったパスワードを手に入れる」というミッションです。それは施設にいる少年には絶対にできず、プレイヤーのみなさんには容易にできること、のはずでした。ところが、パスワードを突破した先に、少年が予想しなかった「二つめのパスワード」が立ちはだかることで、プレイヤーは自分の力でその壁を乗り越えることになります。

形になってしまえばすんなりとした流れに見えますが、この構成に辿りつくまで、どうやって自然な形でWeb探索を成立させればいいのか、全体像がなかなか固まらない苦しい時期が続きました。二重パスワードは藤澤の発案で、この構成で行こうと決まったとき、ようやく道が開けた思いがしました。

また、ひとつの物語を分割して語る構成になったため、どこで何を語るかという情報の切り分けにも苦労しました。私たちは物語の全体像を知ってしまっている分、却って新章と「令和7年度施設案内冊子」のそれぞれで、何をどこまで語ればいいのかに悩んでいました。それが藤澤の「一番重視して描くべきなのは、少年の彼女への想い、感情でしょ?」という一言で、目が覚めるように視界がクリアになったのをよく覚えています。情報がスッキリと切り分けられただけでなく、七村というキャラクターの性格づけまで一気に鮮明になった、忘れられない瞬間でした。

最後に、企画の構成上やむを得ないことですが、リアルイベント「ぼくらの表現祭」を遊んでいただいた段階では、「クリアした!」とはっきりわかるようなゴールがありませんでした。そのため、会場でいろいろな試行錯誤をしていただいたり、イベント後しばらくの間、結末をお待ちいただくことになりました。リアルからWebへと物語を繋げることの難しさを実感すると同時に、プレイヤーの皆様のクリアにかける情熱を目の当たりにし、早く結末をお届けしたいというモチベーションになりました。新章の結末に辿りつき、体験してよかったと思っていただけていれば、何よりの喜びです。

新章の舞台となった廃棟のスケッチ。リアルイベント「ぼくらの表現祭」をクリアすると到達できるサイトページには、当初、この意味ありげなスケッチが掲載されていた

インタビュー
楽曲担当 虎渡 由姫

新章「少年の声、彼女のうた」は「歌」がとても重要な要素でした。こだわった点について教えてください

はじめは、クリア後にプレイヤーの皆さんが聴ける“ファンサービス的な一曲”という意識が強くて、少しアップテンポで晴れやかな曲として作り始めました。物語を走り切ったあとに気持ちよく余韻を受け止めてもらえる、エンドロールに添える一曲のような立ち位置を想定していたんです。

ところが、物語の枠組みを作っていくうちに、この歌は単なるおまけではなく「七村がネオンに心を奪われる瞬間を象徴する曲」になっていきました。そうなると曲が担う意味が大きく変わってくるので、胸の奥に残るような引力を大切にしよう、と方向性を切り替えました。

制作ではディレクターの藤澤から何度もフィードバックをもらいながら試行錯誤を重ねています。中でも「Aメロとサビのメロディを同じにする」というアイデアは藤澤の提案でした。物語の途中でプレイヤーがサビの旋律を先に耳にして、クリア後にフル版をAメロから聴いたとき、冒頭から“知っているメロディ”が立ち上がってくるので、体験の記憶と旋律が結びつく仕掛けになったと思います。

実際に完成した歌を聞いてみてどう感じましたか?

レコーディングに立ち会って歌声が入った瞬間は素直に感動しました。制作の初期段階では歌声合成ソフトでデモを作っていたので、自分の作った曲に生の歌声が乗ったとき、同じメロディでも空気が一気に変わって聴こえたんです。

今回はアカペラということもあって、メロディそのもの以上に、息づかいや声の揺れ、言葉の置き方がそのまま曲の表情になります。そこにネオンの感情がダイレクトに滲み出て、プレイヤーの皆さんにもまっすぐ伝わるはずだと思いました。完成したバージョンを聴いたときは、ネオンの存在が“設定”ではなく現実味を帯びて感じられて、「ネオンがそこにいる」と思えたのがいちばん印象に残っています。

インタビュー 令和7年度施設案内冊子
担当 安藤 未沙稀

企画が始まった経緯について教えてください

リアル表現祭と一周年アップデートがまとまって大きな企画になった時、その追加コンテンツとして「令和7年度版の施設案内冊子」も作ろうという話になりました。
実は「令和6年度の施設案内冊子」を出す際、総監督の藤澤が、リリース直前に商品名に“令和6年度”を付けてくれたんです。そうして発売された令和6年度版が、たくさんの方にお手に取っていただけたこともあり、一連のアップデートの企画を立ち上げる中で、合わせて令和7年度版を出そうという流れになりました。

新章の後日談として作成する際にこだわった部分について教えてください

後日談と言うよりは、「少年の声、彼女のうた」の補遺としての側面が強い作品なので、先にリリースされるアップデートのコンテンツ制作と同時進行しつつ、都度擦り合わせながら進めました。監督補の安藤(房枝)が詳細な時系列をまとめて、かなり細かく監修してくださったこともあり、プレイヤーの方が先に体験された一連のアップデートと密接にリンクしたものに仕上がったのではないかと思います。

内容の面では、七村の感情を掘り下げることがマストだったので、かなり作りがいがありました。私は感情を描くのがあまり得意ではないので、藤澤やチームのメンバーから様々なフィードバックをもらいつつ、何をどう表現するべきか試行錯誤しながら進めました。

七村が“やっていたこと”と“考えていたこと”のズレから、彼の思いを垣間見つつ、プレイヤーにすべてを託すまでの軌跡を一気に駆け抜ける。そんな体験になっていればいいなと思います。

プレイヤーの感動の声が多く集まっていました。ストーリーに涙した皆様に、監督補の安藤房枝さんからメッセージをお願いします!

かがみのの続編でありながら、新章は自分たちでも驚くほど、趣の異なる物語になりました。

かがみの本編は、すでに起こってしまった出来事の真相を粛々と調査する体験で、世界観や設定を綿密に作りこんだため、深掘りや考察が楽しいという感想を多くいただきました。

それに対して新章は、人物の行動を追いかけながら、希望と絶望の間を揺れ動くダイナミックな現在進行形の物語となりました。リリースが近づいたころ、振幅の大きい展開でプレイヤーの方を振り落としてしまわないだろうか、考察を期待されている方に今作を受け入れていただけるだろうかと不安を抱いたこともありました。

緊張して迎えたリリースの後、「泣いた」という短い感想を目にして、それだけ深く物語に没入していただけたのだとわかり、本当に嬉しく思いました。表現祭の絵画の向こう側に、Webサイトの画面の向こう側に、精一杯生き抜いた少年の存在を感じていただけたら、これ以上の喜びはありません。

少年が音声ガイドとボイスメモの録音に使用したボイスレコーダー。少年の声が、この物語を貫く軸となった

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