Works実績

// 代替現実ゲーム(ARG)

かがみの特殊少年更生施設(第四境界 / 6417)

担当範囲
企画・マンガ原作・制作
企画・制作
ストーリーノート×SANKYO×マレ
展開媒体
Web、X、YouTube
サービス開始日
2024.4.1
ジャンル
常設型ARG
ウェブサイト
https://kagamino-jrep.net/

「お願い、気づいて!」
一人の少女の嘆きから始まる
前代未聞の物語

実在するウェブサイトを検索して少年更生施設に隠された真実を暴くという本作「かがみの特殊少年更生施設」(以下「かがみの」)は、非常に珍しい〝常設型〟のARGだ。膨大なデータベースと複数のマンガから構成されるこの前代未聞のARGは、どのように制作されたのか。ARG部門を担当した西尾英子とマンガ部門を担当した安藤房枝に、その舞台裏を訊ねた。

インタビュー
ARG部門 西尾英子

「マンガ×ARG」にチャレンジすることになった経緯を教えてください

SANKYO様から「新しいマンガ企画を」というお話をいただいたのが始まりでしたね。ストーリーノートは『Project:;COLD』というARGを展開していたので、マンガとARGを融合することで新しい物語体験を作れるのではないか、という想いから制作が進められました。じつはXの運用やウェブサイトの制作が決まったのは結構あとの話で、最初はとにかく「マンガありき」で企画が練られていきました。

事前プロモーション、「表現祭」などの裏話があればぜひ教えてください

Xアカウント「気づいて」に投稿した表現祭の動画は、代表の藤澤をはじめとする社員数人が関東某所に集まって撮影しました。ARGを遊んでくださる方は本当に些細なことから謎を解いてしまうので、壁のシミひとつにも気をつけて撮りましたね(笑)。動画のメインとなるマンガは、映り方やページめくりのスピードなどを変えて、全部で3パターン撮影しています。

「表現祭」とは、更生施設に入所している少年の作品の展覧会のこと。衣装から実際の作品まで、様々な小道具を用意して撮影は行われた。

リリース当初、難易度の高さも話題になりました

謎解きや検索ワードの難易度については、本当に悩みましたね。理不尽ではない〝納得感のある難しさ〟をテーマに、試行錯誤を繰り返しました。1人で考えるとどうしても難しく作りすぎてしまうので、藤澤をはじめとするメンバーたちと相談し、みんなで何度もテストプレイをして、少しずつ整えていきました。特に、ウェブサイトの検索ワード探しは序盤でつまずく可能性が高いと考えて、第四境界の動画でいくつかのワードを明かしてみました。これは藤澤の判断でしたが、間口は広く、でも最深部は最高難易度で、というコンセプトに合致した設計になったかと思います。アンケートでは、難しかったけれど面白かったと答えてくださる方が多く、とてもホッとしたのを覚えています。

リリース後の反響を受けてどう思いましたか

ウェブサイトの制作をしている時は、誰にも気づいてもらえなかったらどうしよう、と不安だったんです(笑)。でも藤澤やクリモトさん(※)のプロモーションアイデアを聞くうちに、これならARGが好きな人には届くんじゃないかと希望を持ち始めて。そして公開してみれば、驚くほど多くの方に遊んでいただき、考察や実況動画もたくさん配信されました。ひと安心したのと同時に、ARGの持つポテンシャルを強く感じましたね。アンケートでも、今作がはじめてプレイしたARGだと回答してくださる方が多かったですし、ARGのすそ野はまだまだ広がるんだと実感しました。

(※)第四境界に所属するクリモトコウダイ氏のこと。本作にはプロデューサーとして参加。

今作でARGとしてこだわった点を教えてください

従来のARGは時間的な制約が多く、リアルタイムで参加しないと楽しみづらいという一面がありました。今回の「かがみの」では絶対にその問題を突破したかった。いつでも遊べるARGを目標とし、時間の経過が関係しないという条件の中でアイデアを出す過程は、暗中模索の大変さもありましたが、とてもワクワクしましたね。そして試行錯誤を重ね、最終的に「かがみの」は常設型のARGとして完成しました。いつでも誰とでも遊べるという点は、初心者の方でも入りやすく、また他の人に広めやすいという特徴になったのかなと思います。

「かがみの」のサイト内を検索することで辿り着けるページ。この人物はいったい……?

プロジェクトを通じて成長を感じたことを教えてください

前例のない作品だからこそ、迷うことも多かったし、正解のない海を泳ぐような制作作業に気が遠くなったこともありました。それでも関係各社の方々や社内のチームメンバー、そして藤澤の意見やアイデアが、その海を照らす光になってくれた。おかげで、リリースという海岸まで泳ぎきれたと思っています。私がしたのは本当に些細なことで、チームがあったからこそ、この作品を届けることができました。そんな私に成長した点があるとすれば、それはチームでものを創る力。チームのことを考え、チームを動かしていく力だと思います。この経験を活かして、今後も創作の大海を渡っていきたいです。

インタビュー
マンガ部門 安藤房枝

「検閲マンガ」を扱うことになった経緯を教えてください

SANKYO様と藤澤の協議の結果、多くの案の中から、ARGと相性の良い「検閲マンガ」で行こうと決まりました。当初は権力者による表現検閲を想定していましたが、のちに「制作途中でのマンガ改変」というアイデアも加わり、より物語の展開にフィットしたものになりました。塗りつぶしやページ差し替えが、ARGのギミックとして機能すると同時に、マンガ作者の心理表現にもなっている点が「バイカラー・ムーン」の一番の特徴です!

マンガ原稿中の違和感を手がかりに、施設の謎が紐解かれていく。

マンガの制作はどのように進められましたか

ネーム(※)を社内で制作するのは初めてのことで、作業環境をゼロからつくるためマンガ執筆経験のある社員が集まり、ソフトウェアやペンタブレットを導入し共同作業の進め方を勉強しました。実制作では、まずプロットの内容を「ページめくりのリズム」や「印象づけたいセリフ・シーン」を意識してページ毎に割りつけます。次に、数人でページを分担して、コマを割り、フキダシ配置や構図を決め、ネームの形にしていきました。どんな構図だと強く印象に残るか、読んでいて引っかかるところはないか、などを互いにチェックし改良を重ねました。ネームの絵柄やコマ割りには、実は担当者それぞれの個性が結構出ています。完成した「バイカラー・ムーン」を読んでいても、うっすらとその名残があって、それぞれの持ち味がちゃんと活かされているなあ、と嬉しくなりますね。

(※)マンガ原稿の作成前につくるマンガの設計図。セリフ、コマ割り、構図、指示やメモをラフに描いたもの。

プロットやネームの制作中、楽しかったこと、苦心したこと、こだわったことを教えてください

プロットの各シーンができるだけ映えるよう、ネームで演出をつけるのがすごく楽しかったです!苦心したのは、「マンガ改変」のリアリティを保ちつつ、複数の原稿それぞれを一本のストーリーマンガとして成立させること。マンガを通じ、作者に何が起こったのかを最大限に伝えられるよう、いろんな工夫を盛りこんでいます。こだわったのは、ストーリーの中心にいる、とあるキャラクターの魅力と個性を際立たせることです。それひとつで「キャラが立つ」ような、印象的な描写を模索しました。「ザザーンってめっちゃオンザビーチ」というセリフを書いたのは藤澤で、それがキャラの方向性を決定づけましたね。初めて読んだときは、そういうキャラだったんですか!?と少し驚きましたが、フタを開けてみれば「バイカラー・ムーン」屈指の人気シーンとなりました(笑)。

完成したマンガを読んだ感想は

コマ割りや構図を厳密に指定し、細かい指示をびっしり書きこんだネームをお渡したので、作画担当の方は最初、困惑されたのではと思います。やりとりを重ねて、複雑な条件を満たすマンガを完成させてくださり、感謝の気持ちでいっぱいです!シリアスなストーリーが繊細な感情表現で描かれていますが、それが公開原稿(※)では絶妙にシュールな違和感になっていて、意図を完璧に汲みとっていただけている!とガッツポーズをしました。

(※)かがみのサイト「院生作品」ページで公開されている、全64枚のマンガ原稿。

様々な指示を色分けして書き込んだネーム。これを元に複雑な仕掛けのマンガ原稿が作成された。

「バイカラー・ムーン」への反響を受けてどう思いましたか

新しいマンガの見せ方へのチャレンジとして「バイカラー・ムーン」を設計しましたが、意図がどこまで伝わるのか、不安も拭いきれませんでした。「没入してプレイした」という声を聞いて、マンガとARGの相互補完がうまく機能したのだな、と胸をなでおろしました。膨大な情報が渦巻く施設の闇の中で、「バイカラー・ムーン」のストーリーとキャラクターが、ひとつの軸として心に残っていたら嬉しいです。

プロジェクトを通じて成長を感じたこと

マンガ制作は孤独な作業になりがちですが、長いネームを描き切ることができたのは、なんでも言いあえるメンバーとじっくり議論する場があったからです。最初は未完成のイメージを共有するのにためらいがありましたが、議論の場にのせた方が絶対に良くなると確信してから、しっかりと伝えられるようになりました。思わぬ方向からの意見をもらって、キャラがイキイキと動き出したりと、幾度も救われた覚えがあります。創作で苦しんだ経験のある方は、より良い作品を目指して心をオープンにできる場を見つけてほしいですし、私自身も、そんな良い制作環境を率先して作っていきたいです。