Works実績

// 代替現実ゲーム(ARG)

Project:;COLD 1.8 case.633(バンダイナムコエンターテインメント)

CEDEC AWARDS 2022ゲームデザイン部門優秀賞 受賞作品

担当範囲
企画・脚本・制作
サービス期間
2022.3.1〜2022.3.31
企画・制作
ストーリーノート×バンダイナムコエンターテインメント×マレ
ジャンル
次世代型ARG
展開媒体
Twitter、YouTube、Discord
公式サイト
https://www.project-cold.net/

多くのファンの期待に応える形で制作された『Project:;COLD case.633』。前作『Project:;COLD case.613』が誰も見たことのない取り組みだったのだから、当然、続編である本作も誰も見たことがない新しい要素を取り入れなければならない。しかも、前作のファンに受け入れられる形で。加えて本作のシナリオグループの中心を務めた3人は、全員がライター経験1年未満。

社内で形成されたARGへの知見を活かしつつも、様々な部分が手探りで進んでいった『Project:;COLD case.633』。リードライターを務めた天野理緒に、制作の裏側を訊ねた。

「惨劇の五芒星事件」ニュース映像

『Project:;COLD case.633』で取り扱われる事件の初報となる動画。作りこまれたニュース映像は、多くの人の耳目を集めた。本企画に参加するユーザーは、Vtuberの少女・Cとともに、様々な調査を行うことになる。

インタビュー

クライアントとのやり取りで印象に残ったことを教えてください。

天野:
プロデュースサイドとは、密にコミュニケーションを取っていました。ARGというのは、その他の媒体にも増して、シナリオとプロモーションが密接なコンテンツだなと思います。私自身はその辺りの知見が乏しかったので、クリモトさん(※)と藤澤のやり取りなどを聞いていると、すごく勉強になりました。

(※)クリモトさん
株式会社マレのクリモトコウダイ氏のこと。本作にはプロデューサーとして参加。クリエイティブを担当した各社の連絡を取り持ったり、公式Twitterの運営を行ったりと、様々な業務を担当した。

シナリオ製作中に、大きく変更した点を教えてください。

プロットの完成間際になって、とある重要な構成要素が削がれたり、登場人物の年齢が変わったりしました。明日美のスマホ(※)をプロモのために先に見せるというのも、途中で決まったことですね。そのときは大変でしたが、いま振り返ってみると、全てにおいて「結果的に修正後の方がよかったな……」と思えるものになっています。

(※)明日美のスマホ
本作の追加要素として、「SPハッキング 」という要素がある。ヒントを元にパスワード(同ページの25日の調査報告参照)を特定すると、作中の登場人物のスマートフォンを覗き見ることができるのだ。『惨劇の五芒星事件』の主要人物、榊明日美のスマートフォンは、シナリオ本編が始まる前に、プロモーションの一環として先行公開された。

シナリオに付いた演出で、印象に残ったものを教えてください。

天野:
Cの動画です。あの頭身が低いモデル(※)がぴょこぴょこ動くのがほんとに可愛くて。特に推しに認知されたときの飛び跳ね方と、関根さんの限界オタク演技があまりにもよすぎて……。あの場面は、癒されたいときに繰り返し見てます。

(※)あの頭身が低いモデル
本作の主要人物Cは、Vtuberという形でシナリオに登場する。約3頭身のマスコットめいたキャラクターは表情豊かかつ、愛嬌たっぷりの身振り手振りで、多くのファンに愛された。

シナリオを書きあげるまでに特にこだわった点を教えてください。

天野:
シナリオの構造だと思います。今回の被害者は自らの境遇に苦しんでいる子供たちで、Cは暗い過去を持つ未来人オタクの少女です。そういうセッティングで、どういうキャラをどこに配置すると構図が綺麗に嵌るのか、藤澤も含めたシナリオチームで考え抜きました。

『Project:;COLD case.633』のシナリオチームには、ライター経験1年目の新人が、私を含めて3人います。会社は開放的な雰囲気で、新人にも裁量を任せてもらえる部分が多く、ありがたかったです。盛んなブレストを経て、自分一人では辿り着けなかったであろうクオリティのものができるのは、チームでシナリオを制作することの強みだと感じました。「藤澤が舵を取ってくれるから、外さないだろう」という信頼や安心感があったのも、のびのび制作を進められた大きな一因だと思います。

また、キャラクターの姿を見せられない状況で、登場人物や舞台にどう感情移入してもらうか、という部分も工夫しました。その結果、舞台に没入できるよう、本筋に関わらない細部まで作り込んでいます。例えば、裏サイト(※)住人は、実は全員分の本名が設定されてるんですよ。

(※)裏サイト
漆ヶ原中学校の生徒たちが集う裏サイト、という設定のDiscordサーバー。書き込みは19人のモブキャラクターたちによって行われていたが、実は全員にクラス・本名・部活動などが設定されている。

https://discord.com/invite/4sabynMkCA

作品の中で特に気に入っているセリフを教えてください。

天野:
事件の決着がつく動画(※)のクライマックスの説得セリフです。この作品には、子供を虐げる大人、死に導いてしまう大人がいます。他にも、人間の醜いところがたくさん描かれています。だからこそ、真摯に寄り添ってくれる大人の手によって、苦しむ子供たちが救われる世界であってほしいという、ある種の祈りが込められているのかもしれません。担当された声優さんの凄まじい名演を聞いたときは、感無量でした。

(※)事件の決着がつく動画
事件の真相が明らかになり、改めて『惨劇の五芒星事件をなかったことにするにはどうすればいいのか』という問いかけが視聴者に投げかけられた動画。クライマックスのセリフは多くの融解班に感動を与えた。

ファンの受け止め方について、印象に残ったことを教えてください。

天野:
融解班の皆さんが、キャラクターや世界に愛着を持ってくださったことです。Cや被害者生徒たちはもちろん、もっちりもっちっちーや徳重といったTwitterアカウントを持つキャラクター、裏サイト住人にまで感情移入してくださったのが本当に嬉しかったです。

もっちりのTwitterにうる中校歌弾いてみたがアップされるや否や、融解班の手によってうる中校歌が様々な形で発展していった(※1)のは、お祭り的な雰囲気を感じてワクワクしました。こういう高い熱量の一体感は、本当にARGならではだと思います。うる中は、この『Project:;COLD case.633』に浸ってくださった融解班の皆さんの心の中にあります。ソーランヒップホップ(※2)には、この調子で世界に羽ばたいていってほしいですね。

(※1)うる中校歌が様々な形で発展していった
うる中校歌とは、作中に登場する架空の中学校・漆ヶ原中学校の校歌のこと。謎解きのために歌詞が制作され、ストーリーノート社内の有志によりメロディーが付けられた。本来、メロディーの公開予定はなかったものの、「せっかく作ってもらったし」ともったいない精神により、作中登場人物のTwitterアカウントに掲載された。歌詞・メロディーが揃ったことにより、融解班は大盛り上がり。公式Discordでは「うる中音楽部」というスレッドが立ち上がり、実際に歌ってみたり、ボーカロイドに歌わせてみたり、バンド風にアレンジするなど、様々な遊びが行われた。

(※2)ソーランヒップホップ
漆ヶ原中学校の体育祭で行われている架空の競技。作中登場人物のTwitterアカウントを発見させるために設定されたキーワードだが、インパクト抜群の字面から多くの融解班の注目を集めた。本編終了後に歌詞が公開されたが、これもプロジェクトの進行途中で「これだけ盛り上がっているんだからソーランヒップホップの詳細を作ろう!」と、追加制作されたもの。

プロジェクトの最中に成長を感じたことを教えてください。

天野:
毎日が成長の連続でした!ファンに喜ばれるシナリオ作り、コミュニケーション、リアルタイムコンテンツならではの知見など、私自身の視野もぐっと広まったと思います。体験としての物語をいかに魅力的に見せるかを常に模索し、新しい表現の地平を切り開いていこうとする藤澤の視点はとても貴重で、学ばされることが多かったです。社内の方々には、プロジェクト外の人まで、ネタ出しや裏サイト書き込みや盛り上げなど、たくさん応援・協力いただきました。

そして何よりも、コンテンツを楽しみ、盛り上げてくださった融解班の皆さんのおかげで、プロジェクトを完走できたという思いがあります。この『Project:;COLD case.633』に関わってくださった全ての人々に対して、感謝の気持ちでいっぱいです。