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// ARGミステリーコンテンツ

人のカレンダー(第四境界)

CEDEC AWARDS 2025ゲームデザイン部門優秀賞 受賞作品

担当範囲
企画・制作・運営
企画・制作
第四境界
展開媒体
Web、X、BPS
サービス開始日
2025.04.01
ジャンル
ARGミステリーコンテンツ
第四境界公式X
https://x.com/daiyonkyokai
販売ページ
https://shop.daiyonkyokai.net/products/calendar

8月31日──わたしは殺される。
小さな島から届いたカレンダーは
その言葉で閉じられていた

『人のカレンダー』は、第四境界が制作・販売するARGミステリーコンテンツ。「人のシリーズ」四作目にして、リアルタイム進行、境界律システム「BPS」の連携によるアーカイブ化など、新たな一面を見せた本作はどのようにして生まれたのか。コンテンツ制作を担当した武川真哉に、その舞台裏を訊ねた。

インタビュー
コンテンツ制作 武川真哉

企画が始まった経緯を教えてください。

2024年の10月にプロデューサーのクリモトさん(※1)が書いた企画書をもとに、プロジェクトが始まりました。企画書には「『人の財布』シリーズでリアルタイムARGをやる」という挑戦的な一文がありました。自分は「Project:;COLD 1.8」の制作に参加していたので、リアルタイムARGは理解しているつもりだったのですが、まさか「人の財布」シリーズ最新作がリアルタイムになるとは思っていなかったので、はじめは驚きました。

同時に本企画は、「従来の第四境界ファンだけでなく、より多くの人に参加してもらえるコンテンツにしたい」という思いのもと立ち上がったものでもありました。この目標を達成するため、藤澤(総監督)との共同監督として角谷進之介(※2)さん、メインイラストレーターとしてお盆(※3)さんという二人のゲストクリエイターを迎えてチームが発足。本格的な制作がスタートしました。

(※1)第四境界に所属するクリモトコウダイ氏のこと。本作にはプロデューサーとして参加

(※2)「#この謎解きはフィクションです」などを手がける、謎解きクリエイターの角谷進之介氏のこと

(※3)キャラクターデザインや鋳波島での日常イラストを手がけた、イラストレーターのお盆氏のこと

本作の特徴を教えてください。

本作では、主人公である「川凪こよみ」や物語の舞台となる「鋳波島」の実在感を高めるために、ブログや島の公式サイト、こよみが通う高校のホームページ、複数のSNSアカウントなど、多くのラビットホールが用意されています。リアルタイム版では、それぞれが不定期に更新されるため、情報を追っていく内に自分たちが暮らしているこの現実世界が鋳波島にゆっくりと侵蝕されていくような、そんな不思議な感覚を味わえるようになっています。

こよみの様子は第四境界の公式X上でも投稿され、その内容が衝撃的だと話題になりました。そして、クライマックスを迎えた8月31日には、とある交錯員の方のポストが総インプレッション数2000万以上を記録した、なんてこともありましたね。こよみの存在が、第四境界のことを知らない人にまで届いたのは、Xを知り尽くした角谷さん、お盆さんのクリエイティブの賜物だったと感じています。

第四境界Xに投稿された川凪こよみの様子。一見すると微笑ましいお誕生日会のようだが…

4か月間にわたり様々なギミックが展開されましたね。特に印象に残ったギミックがあれば教えてください。

角谷さんの謎・ギミックはどれも洗練されていて絞りきれないのですが、特に思い入れが強いのは、謎の鍵アカウントを巡る一連の謎解きです。その鍵アカウントの登場を境に物語は急展開を迎え、登場人物たちの相関図が複雑になり、穏やかだったこよみの日常にも暗い影が差すようになります。物語と密接に絡んだ、まさにターニングポイントとなる謎解きでした。

それから、「適職診断」や「鋳波島高校サイト」のギミックは、やはり強く印象に残っています。どちらも見た目はありふれたWebサイトなのですが、かなり特殊な仕掛けが隠されています。ギミックを考えているときは、「本当にこんなことが実現できるのか?」と不安だったのですが、Web開発を担当していただいたイロコトさん(※4)が、自分たちの想像を上回るクオリティで実装してくださり、素晴らしい演出が完成しました。今見ても惚れ惚れするくらいクールな仕上がりになっているので、体験していない方はぜひサイトからその仕掛けを探してほしいです。

鋳波島公式サイト内に突如登場した「離島で生きるための適職診断」。現在、「人のカレンダー」を購入していないプレイヤーも無料で遊ぶことができる。(鋳波島公式サイト内にアーカイブ版のネタバレが含まれているため、プレイ予定の方は閲覧注意)

(※4)株式会社イロコト。第四境界が手掛ける作品のWeb制作やシステム開発を担当していただいている

「人のカレンダー」は、リアルタイム版が終了した数か月後に公開された「アーカイブ版」も話題になっていました。どのようにしてアーカイブ版の開発・販売に至ったのでしょうか。

リアルタイムARGは、性質上どうしても体験が一過性になってしまう欠点を持っています。 作り手として、せっかく作り込んだ物語に消費期限が設定されてしまうのは、やはり悲しい。どうにかしてリアルタイムARGの熱を保ったまま、より多くのプレイヤーに体験してもらえるようにならないだろうか。その思いのもと、2024年から藤澤とクリモトさんの間で「境界律システム『BPS』」(※5)の構想が練られていました。

そして「人のカレンダー」が始まった2025年4月から、イロコトさんを中心にBPSの開発が進められました。D4メール、SNSやブログの更新、Webサイトの特殊演出まで、「人のカレンダー」のすべてをBPS上に集約し、後から再現できるようにするわけですから、それは途方もない挑戦だったと思います。デモ版が組み上がった後もテストプレイを重ね、通知のタイミングやデザイン、演出を洗練させていきました。そしてようやく完成したのが、「人のカレンダーArchive」です。第四境界がARGに注いだ情熱が、そのまま結晶化したような作品になっていると思います。

2025年5月の鋳波島高校の様子。BPSを通じて川凪こよみの日常に干渉できる。

(※5)「Boundary Principle System」通称「BPS」。第四境界のアカウントシステムと連携することで作品の管理、進行度の保存など快適なプレイを可能にする新システム

ゲストクリエイターの方と連携しての制作を通じて学んだことや成長を感じたことを教えてください。

「人のカレンダー」の制作・運営期間中、角谷さんには毎朝Zoomでその日の更新物の確認、今後の物語の展開のすり合わせ、次なる謎の制作など、根気強くお付き合いいただきました。その際、印象的だったのは、徹底してプレイヤー目線に立って考える角谷さんの姿勢です。どうやって謎が提示されるときれいな導線になるのか、解き筋となる情報はどこから持ってくるのが面白いのか。角谷さんは一つひとつ妥協することなく検証し、必ず「答え」を見つけ出されていました。謎と物語、さらにお盆さんのイラストが組み合わさって一つの作品になっていく様子を目の前で見られたことは、本当に貴重な経験だったと思います。

もう一つ制作当時のエピソードとして、実は当初「人のカレンダー」は、主人公・川凪こよみの物語として描き切る予定で、NMSTの会(※6)の登場は想定にありませんでした。 しかし制作の過程で、「もっと鋳波島の因習に切り込んでいきたい」という思いが強くなり、角谷さんや藤澤に志願して、NMSTの会会長・樋泉杏が登場するシナリオを作らせてもらいました。

そうなると、作中に登場する謎の数も、書かなければいけないシナリオの量も当然増えてしまうのですが、角谷さんは「作品を面白くするためなら」と快く受け入れてくださいました。角谷さん、お盆さんという常に作品ファーストの姿勢で物づくりに臨まれているクリエイターさんと一緒に制作ができた経験は、何物にも代えがたいものです。今後の作品作りに活かせるよう、精進していきます。

(※6)「日本民間信仰討究の会」通称「NMSTの会」:「人のカレンダー」に登場する組織名