これはアートか、告発か──
変化する作品展に隠された
少年たちの命懸けの声を聴け
「かがみの特殊少年更生施設」初のリアルイベントであり、会期後にはオンライン展示として公開された、「令和七年度 ぼくらの表現祭」。架空の催しだったはずの「表現祭」にプレイヤー自らが潜入、展示に隠されたメッセージを読み解き、施設の闇に迫った。
制作の舞台裏を、監督補を務めた安藤房枝と、音声ガイド制作を担当した虎渡由姫に訊ねた。
インタビュー
監督補・コンテンツ制作 安藤房枝
企画が始まった経緯を教えてください。
社内では以前から、「音声ガイドやキャプションを駆使した謎解き要素のある展覧会をやってみたい」というアイデアが出ていました。そんな折、株式会社SANKYO様のご支援もあり、イベント「東京侵蝕2025」が実現する運びとなりました。イベント内で、「かがみの特殊少年更生施設」に関する企画をやることになったとき、どんなことなら「かがみの」をプレイしたみなさんに喜んでいただけるか、総監督の藤澤とチームで話し合いを重ねる中で、件のアイデアと「表現祭」が結びつきました。
かがみのの始まりでもあった「令和5年度表現祭」(※1)は動画のみでしたが、今度はプレイヤーが実際に行ける「リアル表現祭」ができるのではないか──それが企画の始まりでした。このコンセプトが決まると、「招待状を受付で見せよう」「展示作品の隠し撮りをしてもらおう」などの具体的なアイデアが決まっていきました。
※1)Xアカウント「気づいて」から投稿された、表現祭の隠し撮り動画。動画に映った作品が、サイトを掘り下げる重要な手がかりとなった。
かがみの初のリアルイベントとしてこだわったところがあれば教えてください。
こだわった点は2つあります。
ひとつめは、展示を見た方に、表現祭をつくりあげた院生の少年たちの実在感を生々しく感じとってもらいたい、という点です。フライヤーやキャプション文、音声ガイドの内容まで、すべて院生たちが自分たちで作ったという説得力を大切にしています。
絵画作品は、筑波大学芸術系の皆様のご協力を得て手描きで制作していただき、一部の作品は社員で協力して手作りしました。社内外のみなさんの技術とアイデアが結集されていて、今もオンライン展示を見るたびに感謝の気持ちが込み上げます!
ふたつめは、半日ごとに展示作品が入れ替わる「ローテーション展示」です。このアイデアを藤澤に提案したとき、「面白いけど、普通の展示に比べて実現難易度がずっと高く、茨の道になるよ」と言われ、どちらの道を進むかとても迷いました。
東京侵蝕は全5日に渡るリアルイベントで、時間経過をギミックに活かせる機会は、これを逃せばいつ来るかわかりません。また、「変化していく作品から、差分を読み取る」という謎解きは、まさに漫画「バイカラー・ムーン」でやったことでした。同じことを「変化する展示」でやれれば、かがみのらしい驚きあるものになる、という確信がありました。
さらに、展示作品を隠し撮りしてSNSで共有する、という遊びの性質上、一回見たら終わりではなく、「展示の最終日まで新鮮な驚きがあってほしい!」という強い思いもありました。
そんな思いに背中を押され、「やります!」と答えました。藤澤の言葉通り、実現難易度は非常に高かったのですが、あの東京侵蝕という場でしかできない企画になったと思います。

油彩画、水彩画、アクリル画、パステル画。多彩な絵画が並ぶ展示室。
その「ローテーション展示」はSNSでも話題になりました。詳しくお聞かせください。
ローテーション展示は、展示室全体を使った大きなギミックで、毎日前半と後半で展示作品を入れ替えるものです。メッセージを読み解くには、すべての展示回の写真が必要で、来場者は、監視員の目を盗んで作品を撮影し、SNSで共有してコンプリートを目指します。展示回は全10パターンとなり、必要な作品数が大幅に増えたため、すべての作品が無事にそろったときは本当にホッとしました。
当初は、展示替えのための小休止を入れる想定でしたが、開催日が近づいた頃、小休止をせずにお客様の前で展示替えをすると決まりました。複雑なオペレーションを人前ですることにプレッシャーを感じましたが、展示替えがあると知って、それを見るために待ってくださる方が現われはじめ、私たちにとっても次第に楽しみな時間となっていきました。新しい作品が飾られた瞬間のどよめきを聞き、表現祭スタッフ一同、展示替えも楽しんでもらえて本当に良かったと思いました!
また、会場に来られない交錯員の方々にも、現地勢と力を合わせて、SNSにアップされていく写真を手がかりに考察する、臨場感ある体験をしていただけていたら、とても嬉しいです!

「ぼくらの表現祭」開催期間、展示時間の中間と終了後にスタッフが展示替えを行った。
音声ガイドにギミックを仕込んだことも特徴的でした。工夫した点があればぜひ教えてください。
音声ガイド・コンテンツ制作担当 虎渡 由姫
音声ガイドは、一人でも解ける比較的易しいギミックを用意しましたが、気づいたときにゾワッとしてもらえることは忘れずに意識して作成しました。無音の時間の後に流れるメッセージに驚く交錯員のみなさんの表情が会場で見れてうれしかったです。
また、一つのガイドが長くなると展示会場の流れが悪くなるので、どれも約20秒程度に収めるように作成しました。特に、隠しメッセージについては重要な内容を伝えているため、短くまとめるのが難しかったです。
そして、重要なギミックの作品「光で数字が浮かび上がるポスター」は、最初は想像通りのものを作るのに苦戦しました。最終的にはフラッシュで発光するインクを購入し、印刷したポスターに筆で数字を上塗りしました。うまくいかなかったら代案を考えようという状況でしたが、時間も迫っていたので「頼む!うまくいってくれ!」と思いながらインクを塗りました。結果として、フラッシュできれいに発光し、ギミックをみなさんに楽しんでいただけたのでよかったです。
この表現祭が新章「少年の声、彼女のうた」につながっていたのには驚きました!この構想は、最初から意識していたんですか?
「東京侵蝕2025」と同時期に、リリース1周年にあわせた「かがみの」サイトのアップデートも予定されていました。両者を繋げ、さらに「令和7年度施設案内冊子」も含めて、ひとつの大きな物語を体験してもらいたいというアイデアは、かなり早い段階で決まりました。うまくいけばきっと驚きのあるものになる、という予感もありました。
総監督の藤澤からも「このアイデアで行こう」とGOサインが出て、意気込んで進めはじめたのですが、実現過程では何度も壁にぶつかりました。ひとつの大きな物語といっても、それぞれのコンテンツは、繋がりを持ちながらも単独で成立している必要があります。リアル展示とオンライン展示の両方を成立させ、さらに新章と矛盾なく繋げねば……と多くの制約でがんじがらめになっていたとき、藤澤の大局的な視点からのアドバイスで突破できたことが何度もありました。
アイデアが成立するかしないかを見極める感覚の大切さ、そして成立すると思ったら、壁を突破できるまで考え抜くことの重要さを現場で学ぶことができた、本当に貴重な時間でした。

受付スペースには、マスコットキャラのシナイドリぬいぐるみや、新しい「令和七年度施設案内冊子」、「バイカラー・ムーン」の単行本などが展示された。
最後に、“かがみの特殊少年更生施設”を応援してくれるファンのみなさんへ、あらためてメッセージをお願いいたします。
「令和七年度 ぼくらの表現祭」へ足を運んでくださった皆様、オンラインで楽しんでくださった皆様、本当にありがとうございました!
院生たちが初めて自分たちの力で作りあげたという設定の「ぼくらの表現祭」は、企画した私たちにとってもリアルイベントへの初めての挑戦で、なにもかもが手探りでした。制作中に「令和七年度表現祭のお知らせ」を公開したとき、かがみのが再び動き出すことを喜んでくださる声に、どれだけ励まされたかわかりません。
その後、新章「少年の声、彼女のうた」、「令和七年度施設案内冊子」をお届けすることができ、「ぼくらの表現祭」に端を発した物語は、ひとつの完結をみました。今も、かがみの世界は、様々なメディアで広がっています。どうぞこれからも、「かがみの特殊少年更生施設」に隠された深い闇に、注意を向け続けてください。気づいた小さな違和感から、新しい物語がはじまるかもしれません。

