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2022.12.09

// 採用関連

1500文字プロット─2020年度 採用者作品

藤澤 仁(storynote代表)

【選択可能ワード】
時間差/漂流/すれ違い/自撮り/高層ビル/ツァイガルニク効果/古いカレンダー/
風刺絵/氏神/合唱コンクール/叙述トリック/コーンフレーク/パレイドリア/
テセウスの船/割れた鏡/背伸び/昔の相棒/雨宿り/マッサージ椅子/
空き缶/カリギュラ効果/消防車/古い映画/去年植えた種/夏休みの思い出

【選択ワード】《古い映画》《昔の相棒》《テセウスの船》

反重力装置の技術が軌道に乗り上げ、中間圏までの人間の生活が可能となり、人類は地上での居住に必要性を持たなくなった。富裕層がより高度の滞空生活権を手に入れる一方で、一般庶民は対流圏での生活が限度であり、貧富の差はそのまま高度に現れることとなっていく。主人公は17歳の少年で、オートバイや自動車といった熱機関の整備工見習いとして地上で働いている。しかし、太陽光を主要な動力源とする反重力装置の登場により、石油、石炭の市場は急速に衰退していき、熱機関は淘汰される傾向にある。
少年はかつて見た《古い映画》の中で飛行機に魅了され、整備工を目指したものの、航空機はすべて反重力装置によって飛行しているため、内燃機関によって飛行する飛行機は現存していない。それでも少年は、いつの日か《古い映画》の中で見た飛行機で、空を飛んでみたいという夢を持っていた。
ある日、少年は倉庫で一枚の写真を見つける。写真には若かりし頃の親方と親方の《昔の相棒》が写っており、その後ろにはあの映画で見たのと全く同じ飛行機が写っていた。少年は早速写真の詳細を親方に尋ね、親方はその飛行機なら《昔の相棒》が管理しているはずだと答えた。少年は親方に自分の夢を打ち明ける。親方は、空の上で暮らしている《昔の相棒》に会いに行くことを許可し、少年の背中を押す。
空の上に行くためには、専用の反重力艇に乗らなければならない。少年は自らが調整したオートバイを飛ばし、野宿をしながら三日走り続け、乗り場に辿り着いた。乗り場は仕事を求めて空の上を目指す人で溢れていた。少年は乗り場で自分が乗る船を待つことにした。待っていると、声を掛けてくる男がいる。話を聞いてみると、男は一攫千金を夢見て空の上に行くのだそうだ。少年は、飛行機を探しに行くのだと男に話すも、一笑に付されてしまう。「そんなのは夢のまた夢だ、飛行機は絶滅した」と男は少年に言ってのける。
反重力艇で浮上し、少年は空の上の一つの街に着いた。空の上では、環境規制によってオートバイは使用できない。次の乗り場まで徒歩で移動する少年の上空を、いくつもの船が往来している。その中に映画で見たような飛行機は一機としてなかった。少年は、その汚れた身なりから警察官に目を付けられたが、通り掛かった一人の男性に救われた。男性は、少年を自分の家へ誘った。怪しむ少年だったが、結局は男性と家に向かうことになった。男性は、地上に興味があり、時折少年のように地上から来た子どもが警察に捕まる前に声を掛け、そのお礼に地上の話を聞いているのだと話した。少年は地上での生活や仕事について話した。少年が見た《古い映画》を男性も見ており、二人は打ち解けて会話を続けた。
少年が夢を語ると、男性は渋い顔をした。三年前、大きな改革が空の上で起こり、内燃機関性の乗り物の個人所有は禁止され、すべての飛行機は反重力艇に改造されたと男性は語る。信じられないという表情をする少年に、男性は《テセウスの船》の話をする。見た目が変わったとしても、型番は飛行機の頃と同じであり、記憶も残っている。どうか、変わった姿を見てもがっかりしないでほしい、存在するために形を変えることは必要な現象だと語った。
男性の家を後にし、《昔の相棒》の家に着いた少年は、変わり果てた姿の飛行機を見て落胆する。それを見た《昔の相棒》は、少年を倉庫に案内し、あるものを見せる。それは、かつての飛行機に搭載されていた星形のエンジンだった。相棒は少年に、このエンジンを譲ると言った。あの飛行機は存在しないが、エンジンはある。地上で飛行機を作り、これを搭載すればあの時のように飛ぶことは可能だと語った。少年は飛行機を作り、地上から飛び立つことを固く誓った。

以上