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2022.12.11

// プロット

『1500文字プロット』2022年度合格作品

藤澤 仁(storynote代表)

【選択可能ワード】
台風の夜/ビハインド/見えない壁/時間差/巣ごもり/すれ違い/自撮り棒/
親ガチャ/ヤングケアラー/推し/ありがた迷惑/背伸び/名誉挽回/リモート/
ゲリラ豪雨/泣き笑い/内緒話/詰み(詰む・詰んだ)/多様性/被写界深度/
共依存/苦し紛れ/魔がさす/パラドックス/認知バイアス/パンドラの箱/
パンデミック/突貫工事/カードゲーム/アニミズム

【選択ワード】《親ガチャ》《認知バイアス》《詰み》(詰む・詰んだ)

高校二年生の夢愛(めあ)はアイドルグループの研究生。両親の離婚に伴い「苗字変更届」を書きながら途方に暮れていた。
半年前、難病の免疫系疾患で母が入院した。発病率は1万人に1人。それをガチャのSSRよりレア、と表現したのは弟の広夢。
何より辛いのは、優しかった父が病床の母を見捨てたことだ。家族を支える自信がないと泣く父に、夢愛は愕然とした。広夢が「うちは《親ガチャ》ノーマルだと思ってたけど、SSSカスだったんだな」と呟いた。

全てを諦めようとしたとき、次の新曲選抜を決める「じゃんけん大会」の発表があった。メンバー・研究生問わず、予選と本選からなるトーナメントで16人に残れば選抜入り、優勝者はセンターとなる。チャンスは平等だ。
選抜入りして、リアルガチャの結果がカスだけじゃないと証明する、と息巻く夢愛に、広夢は冷静に返す。確率が極小なのに自分にチャンスがあると感じるのは《認知バイアス》のひとつ楽観バイアス、夢を見ないほうがいい。

お守りとして、家族で行った東京スカイツリーの記念メダルペンダントを身につけた夢愛は、予選を勝ち抜く。しかし勝者インタビューの際、自分より人気がある敗者達を見て思わず「私なんかが勝ってよかったの?」と答え、観客を怒らせてしまう。ネットでも炎上し、可愛くない、闇の笑顔、悪夢見そう、等の非難の声に落ち込むが、スカイツリーで撮った家族写真を見て自分を鼓舞する。

本選の朝、次期エース春奈がブログを更新する。『今日は、ぱるにゃのパーで勝ち抜きます!』
意図は明白だ。春奈のファン数は圧倒的で、パーを出すと宣言した彼女に敢えて勝った者は、必ずファンから攻撃される。その圧力を跳ね返す勇気と人気のある者は今のグループにはいない。
「《詰んだ》な」と広夢が呟く。

本選が始まり、春奈の対戦相手は次々グーで敗退する。夢愛は勝ち進みながら、ゼロの勝ち目を五分に戻す方法を模索する。不安に駆られペンダントを握り締めたとき、メダルが外れ床に落ち音を立てる。その瞬間、ある作戦が閃き手が震える。まだ《詰み》ではない。

選抜入りを決める戦いで、夢愛は春奈と対峙する。
マイクアピールで、今回もパーを出すと仄めかす春奈。続いて、夢愛が記念メダルを手に語りだす。無名の私が選抜入りするより、グーで負けたほうが喜ぶ人は絶対に多い。でも私は、チャンスの神様は平等だと証明したい。だから出す手はコイントスで決める。メダルが表ならチョキ、裏ならグー。
予想外の展開に春奈は青ざめる。

緊急審議で、不正防止のためコイントスは司会者が行うと決まり、二人は同意する。
静寂の中、司会者がメダルを高く弾き、空中で受けとめ手を開く。次にカメラが映したのはピースをする夢愛の姿。家族写真と全く同じピースサイン。夢愛は表を引いたのだ。会場の空気が変わる。

ある秋の日、新曲披露の生放送を見るため広夢は母の病室にいた。アイドルって顔か? と毒づく広夢。お姉ちゃんは可愛いっていうより…美人なの。母は微笑んで言う。ちょっと笑顔が下手なだけ。
曲が始まり、ハロウィン風の夢魔の衣装に歓声があがる。『ナイトメア・フィーバー』はダークなディスコナンバー。センター夢愛の大人びた容貌と陰のある微笑にぴったりで、これまでの全ての出来事が今日のために用意された筋書きのようだ。
広夢は思い出す。《認知バイアス》は人の判断を誤らせるだけではない。膨大な情報の山から大事な出来事を抜き出し繋げて物語を生む、重要な心の働きでもあるのだ。
曲の後、夢愛は初めて自分の思いを観客に伝える。
「内藤夢愛、17歳! 夢を叶えたくてアイドルを目指しました。ずっと秘密にしていた私の夢は…」

以上